「農村RMO」という言葉を検索してこのページにたどり着いた方の多くは、おそらく行政や、他の地域で同じ取り組みを担っている方だと思います。
このページは、制度の解説書ではありません。宮崎県日南市の小さな集落・下塚田で、私たち「下塚田ふるさと応援隊」が実際に何に直面し、誰が、どうやって地域を守っているのかを、数字と実話でお伝えするものです。
うまくいっていることも、うまくいっていないことも、そのまま書きます。同じ課題を抱える地域の、判断材料のひとつになればと考えています。
下塚田地区は、宮崎県日南市の中山間部にある農村集落です。
(いずれも2026年4月1日現在)
住民の6割以上が65歳以上。農地や水路、道路、祭り、見守り――これまで集落が当たり前に担ってきた無数の仕事を、担う人が年々減っています。
象徴的な出来事がありました。2018年、地区内で火災が起きたとき、後片付けの現場に集まったのは、被災した方と縁もゆかりもない5人だけでした。かつてなら地域総出で行われたはずの作業です(詳しくは第3章)。
農業の現場でも同じことが起きています。「高齢化と人口減少により、農業生産活動だけでなく、農地・水路などの地域資源の保全機能が急速に弱体化している」――これは私たち自身が事業計画に書いた、下塚田の現実です。
農村RMO(農村型地域運営組織)は、こうして弱っていく「集落の力」を、地区の枠を越えて補い合うための仕組みです。
農林水産省は、集落が果たしてきた役割を大きく3つに整理しています。
農地・農業用水路・農道・ため池、そして農村景観そのものを維持する働き。草刈り、水路の泥上げ、農道の補修などがこれにあたります。
一戸ではできない農作業を、集落で支え合う働き。畦畔(あぜ)や法面の草刈り、あぜ焼き、溝掘り、道普請など、「みんなで出て、みんなでやる」共同作業です。
暮らしそのものを支え合う働き。冠婚葬祭、買い物や通院の手助け、独居高齢者の見守りなどです。
農村RMOは、単独の集落では維持できなくなったこれらの機能を、複数の集落にまたがって補完し、農業を核とした経済活動や生活支援と併せて担う組織として位置づけられています。
同じ「草刈り」でも、目的によって機能が違います。
下塚田では、この3種類の草刈りを、それぞれ違う体制で担っています(第4章)。
私たちは、地区内を流れる細田川の堤防の草刈りを、宮崎県の「河川草刈り及び河川管理用通路補修作業報奨金支給要領」に基づき、年2回(春と秋)行っています。いわゆる「河川パートナーシップ」です。
この作業は、もともと地元の管理組合が担ってきました。2013年度に「下塚田地区細田川管理組合」として始まり、2016年度からは「常幡管理組合」「高田・無田管理組合」の2組織に分かれて取り組んでいました。
ところが、組合員の高齢化が進み、「もう作業はできない」と脱会される方が出ました。そこで組織の構成や規約を見直すとともに、脱会された方の作業区域を「下塚田ふるさと応援隊」が引き継ぐことになりました。
集落の力(①資源管理機能)が弱っていく現実を、農村RMOがそのまま肩代わりした――下塚田で最初に起きた、分かりやすい例です。
2013年頃から、下塚田では、明確な組織こそないものの、気の合う50代・60代の住民が何となく集まり、草刈りや見守りを楽しみながら続ける姿がありました。
そんな中、2018年2月18日、地区内で火災が発生します。被災された方は、Uターンしてこの地に戻り、ひとり静かに暮らしておられ、地区の自治会にも加入していない方でした。
地域には縁故者や同窓生もいましたが、現場に駆けつけたのは、そうした関係のない5名の有志だけでした。現・副会長の呼びかけに応じ、田上吉美(現・副会長)を含む5名が、1台の重機、2トンダンプ、軽トラックダンプを持ち寄り、雨の中、カッパに身を包んで焼け跡に立ちました。異臭とすすにまみれながらの作業の末、建物の基礎だけが残りました。
かつてであれば地域総出で行われたであろう作業に、集まったのは、縁もゆかりもない5名だけ。この出来事は、地域の助け合いの力が弱まりつつある現実を突きつける一方で、無名の人々が支え合う新しいつながりの芽生えでもありました。
この火災をきっかけに、「もっと継続的に、体系的に取り組もう」という機運が2019年末に高まり、2020年4月、「下塚田ふるさと応援隊」が正式に発足します。原始メンバー11名、同年8月に1名が加わって12名での出発でした。
そして現在、会員は19名です。自治会・婦人会・老人会・消防団・PTAといった既存組織のメンバーに加え、若い世代や女性、UIターンで戻ってきた移住者も参加しています。活動のたびに宮崎市から駆けつけてくれる会員もいます。
このページで最もお伝えしたいのが、この章です。
「担い手が減る中で、草刈りや農地保全を、実際に誰がどう担っているのか」。下塚田の答えは、役割を分けた二層構造です。
下塚田ふるさと応援隊は、5つの部会(農用地保全・地域資源活用・生活支援・イベント・デジタルコミュニケーション)と日南レモン生産組合で役割を分担しています。そのうえで、次のように「誰がやるか」を作業ごとに切り分けています。
| 対象 | 担い手 | 頻度 | 財源(年額) |
|---|---|---|---|
| 県道の路側帯・法面(クリーンロードみやざき) | 応援隊の会員 | 年2回 | 受託 87,000円 |
| 河川堤防(細田川・河川パートナーシップ) | 応援隊の会員 | 年2回(春・秋) | 受託 252,900円 |
| 市道の幹線道路(市道愛護) | 地区内の全員44名(44世帯) | 年1回(毎年7月の第1日曜に一斉) | 上限 150,000円 |
ポイントは、同じ「道路の草刈り」でも頻度と担い手が違うことです。
専門的・継続的に受託する作業は応援隊の会員が担い、地区全体にかかわる作業は住民が総出で担う。下塚田では、この線引きを意識的に使い分けています。
河川堤防の対象は細田川で、報奨金は各会員が担当する区域の作業面積に応じて配分しています。
田畑そのものの維持は、あぜ道・用排水路の泥上げと、「あぜ焼き」(圃場全体への火入れ)で支えられています。
あぜ焼きは、毎年1月の第3日曜に地区全体で実施します。2026年は1月18日に行い、地区の全44世帯と地元消防団(第6部)が参加して、諏訪免・無田髙田・常磐・白岸の各エリアを計画的に焼き、事故・延焼ゼロで終えました。景観の維持と害虫防除を兼ねた作業です。
火入れの後は、2月に溝掘り(用排水路の確保)、そして春の粗起こし・田植えへ――この年間サイクルは、先人から受け継いだ知恵です。
圃場単位でも、負担のルールが決まっています。たとえば常幡圃場は、地権者37名で約12.7ヘクタールを共同管理し、維持管理費は反当(10アール当たり)約600円、共同作業に出られない場合の欠席金は5,000円と定められています。
共同作業に支えられてきた農地維持は、いま、静かに揺らいでいます。
かつては、それぞれの地権者が自分の区画のまわりを受け持てば済みました。しかし、営農をやめた方や、地区外に住む地権者が増えたことで、その分の作業負担が、地元に残っている所有者に集中するようになっています。
これは誰か個人の落ち度ではなく、人口減少が進む農村ならどこでも起こりうる、集落機能の弱体化そのものです。私たちは、地権者全員(不在の方も含む)が参加できる話し合いの場をつくり、農地の集約や利用計画を地権者間で共有していく方向で動いています。
機械と人、内と外を組み合わせて、「少ない人数でも回る体制」に作り替えているところです。
下塚田ふるさと応援隊の農村RMO事業(2024〜2026年度)は、3つの柱で組み立てています。集落機能との対応は次のとおりです。
耕作放棄地の解消と農地の維持管理。地元の集落協定組織や農業従事者、自治会、商工会、地域おこし協力隊と連携し、広域で農地を守ります。第4章で述べた草刈り・あぜ焼き・溝掘りがここに含まれます。
農用地保全の取り組みを詳しく見る →代表は日南レモン(マイヤーレモン)です。新品種の試験栽培、加工品の開発、ブランド化を段階的に進め、農産物の第6次産業化をめざしています。2025年10月には、新宿の宮崎物産館KONNEで販売促進のプロモーションを行いました。このほか、伝統芸能(春神楽・獅子舞)の継承なども地域資源として位置づけています。
地域資源活用の取り組みを詳しく見る →見守り、買い物・通院の支援、子育て世代の定着、高齢者の生きがいづくり。具体的には、LINE回覧板の導入、農地をイベント空間に変える軽トラ市、そして独居高齢者宅の草刈り支援(2025年12月に実施)などに取り組んでいます。
生活支援の取り組みを詳しく見る →農地を「守る」活動と、地域資源を「活かす」活動。この両輪がかみ合ってはじめて、地域にお金と人が循環し、守る活動そのものが続けられます。
私たちが大切にしているのは、「外部の補助金に依存せず、自分たちの財源で意思決定と活動を続けられる状態」です。これを自走化と呼んでいます。
応援隊は、2020年の組織化と同時に、活動経費を自分たちで賄うための事業に着手しました。現在の基本財源は次の組み合わせです。
これらは、農村RMOの補助金を受ける前から回してきたものです。
農村RMO事業の補助金額は年によって変動します。しかし、上記の基本財源があるため、補助金がなくなっても、最低限の活動は続けられます。補助金は活動を「加速させる」ためのものであって、それが止まったら組織ごと止まる、という状態にはなっていません。この自立性が、下塚田の自走化の土台です。
守る力が細っていく中で、「稼ぐ仕組み」と「省力化」を同時につくる。それが、下塚田が選んだ続け方です。
農村RMOは、魔法の制度ではありません。下塚田でも、不在地権者の問題や担い手不足は、いまも未解決のままです。
それでも、県道の草刈りは会員が年2回、市道は住民総出で年1回、あぜ焼きは地区全体で、というように、役割を分け合えば地域はまだ回ります。補助金の有無に活動を左右されない財源も、少しずつ育っています。
同じ課題に向き合う地域の方へ。私たちの試行錯誤が、何かの参考になればうれしく思います。視察・お問い合わせはいつでも歓迎します。